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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)7356号 判決

原告 青江興業株式会社

右代表者代表取締役 斉藤隆

右訴訟代理人弁護士 荻原貞則

被告 立共産業株式会社

右代表者代表取締役 神部静江

右訴訟代理人弁護士 葛西宏安

小野寺富男

主文

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金七七〇万円および

うち金七〇万円に対する昭和四七年一二月二五日以降

うち金二〇〇万円に対する昭和四九年二月一五日以降

うち金一〇〇万円に対する同年三月一八日以降

うち金二〇〇万円に対する同年五月一五日以降

うち金一〇〇万円に対する同年七月五日以降

うち金一〇〇万円に対する同月一五日以降

各完済まで年六分の割合の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  原告は、旧商号を旭日産業株式会社(以下単に旭日産業という。)とし、キャバレーおよび料理飲食業を目的として昭和四〇年一一月一三日設立された会社であるが、昭和五三年八月三〇日、その商号を現在のそれに変更した。

二  原告は被告の代表者である訴外南宝亭こと神部静江に対し、(一)昭和四七年一二月二五日、六〇〇万円、(二)昭和四九年二月一五日、二〇〇万円、(三)同年三月一八日、一〇〇万円を貸付けたが、右(一)のうち五三〇万円は弁済されている。

被告は昭和四九年三月二八日設立されたが、同日原告に対し右訴外人の原告に対する右貸金債務の支払を免責的に引受けた。

さらに原告は、被告に対し、(四)、昭和四九年五月一五日、二〇〇万円、(五)同年七月五日、一〇〇万円、(六)同月一五日、一〇〇万円を貸付けた。

三  原告は被告に対し昭和五三年五月一六日到達の内容証明郵便により、右金員および同日までの利息の支払を催告した。

四  よって被告に対し、前記第二項の(一)ないし(六)の合計金七七〇万円およびこれらに対する各貸付日から昭和五三年五月一六日までは利息として、同月一七日以降完済までは遅延損害金として、商事法定利率年六分の割合の金員の支払を求める。

(請求原因に対する答弁)

請求原因第一ないし第三項の各事実は認める。

(抗弁および原告の後記主張に対する答弁)

一  原告は昭和五一年一二月一〇日、被告会社に対する本件貸付金債権を全て被告会社の代表取締役である訴外神部静江個人(以下訴外静江という。)に譲渡し、右債権譲渡は同月一三日付内容証明郵便(乙第一号証)により被告会社に通知され、右通知は同月一四日被告会社に到達した(甲第五号証)。

原告は右債権譲渡(以下本件債権譲渡という。)をもって神部茂と訴外静江との通謀によりなされた虚偽のものであると主張するが、右主張は否認する。神部茂は当時の原告代表者として真実本件債権を訴外静江に譲渡する意思で本件債権譲渡をなしたものである。また訴外静江において本件債権譲渡による譲受債権をもって被告の同訴外人に対する債権とを相殺したことは認めるが、これをもって右通謀と証左となすことはできないものである。

二  原告は訴外静江に対する本件債権譲渡は商法二六五条に違反し無効である旨を主張するが、右主張は争う。即ち

(一) まず、本件債権譲渡は実質的に原告に不利益を及ぼす虞れの全くない取引であったから実質的に同法に該当せず、そもそも取締役会の承認を必要としなかったものである。即ち、

(1) 原告は昭和四四年四月ごろと昭和四八年二月ごろの二回にわたり、その事業資金として各六〇〇〇万円の合計一億二〇〇〇万円を訴外川崎農業協同組合(以下訴外組合という。)から借入れることを計画した。しかし訴外組合はその設置の趣旨、目的から融資先が同組合の区域内に住所を有していることを融資の条件としていたが、当時原告所在地は右区域外の東京都渋谷区であり、他方訴外静江の住所は右区域内にあった。そこで原告は訴外静江に対し、原告の訴外組合からの融資について保証することおよびその趣旨で名義上の借主となるよう要請し、訴外静江はこれを承諾した。その結果前記のころ二回にわたり訴外静江を名義上の借主として、訴外組合は、各六〇〇〇万円を、いずれも返済期を昭和五一年三月三一日として貸付けたものである。

そして右のような訴外組合との接渉、借入手続は全て当時原告の代表取締役であった訴外神部茂が行ない、右のとおり貸付を受けた金員はいずれも実質上の借主は原告であったから、いずれも各貸付の都度直ちに全額が原告に入金され、原告の帳簿(総勘定元帳)上も訴外組合からの借入金として計上処理され、原告の事業資金として使用されていたものである。原告主張のように、神部茂が他会社の株式取得のため等に右借入金を使用したとしても、それは原告の内部問題であって被告の関知しないところである。

(2) しかしその後原告は経営不振から、昭和五一年一〇月二六日ころ不渡手形を出して銀行取引停止処分を受けたため、訴外組合に対する右債務の弁済は全く不可能となった。

そして右債務の弁済期である昭和五一年三月三一日を経過した同年一〇月ころ、訴外静江は実質上の保証人として、同人の訴外組合に対する保証債務の履行にあてるため、予め事前の求償権を行使したが、これに対して原告は訴外静江に対し、右求償権の一部弁済として本件債権譲渡をなしたものである。

(3) なお訴外静江は、訴外組合からの前記借入に際し、右組合を権利者として同訴外人所有の川崎市高津区溝口字南耕地三〇〇番 宅地一六五平方メートルと同地上の鉄筋コンクリート三階建の建物床面積延四九五平方メートルについて、順位一番の抵当権を設定していたが、その後同訴外人は右組合から支払いを請求され、支払いができなかったため右土地建物の抵当権が実行されそうになったが、同訴外人の母親等の不動産等を売却し、辛うじて昭和五三年七月三日、原告の右組合に対する残債務元本六四八〇万円および遅延損害金一四七四万六六六四円の合計七九五四万六六六四円の全額を支払い、右抵当権の実行を免れた。

(4) 従って本件債権譲渡は、原告が従来負っていた債務を弁済するためなされたものであり、会社が不利益を受ける虞れの全くない取引であるから、実質上商法二六五条の自己取引に該当しないものである。

(二) 原告は旧商号旭日産業株式会社として昭和四〇年九月設立されたが、払込済資本金は五〇〇万円であり全額を神部茂が払込んだが、設立手続の簡易化をはかり募集設立とし、形式上斉藤隆、三縞修および市万田晴弘等を発起人に加え、その後右三名も形式上株式を五〇〇株宛引受けて払込株主となったものである。しかし右三名の株式引受については全て神部茂が金員を払込んだものであって、右三名は単に名義を貸したに過ぎず、原告の全株式は神部茂が所有していたものである。また右三名は原告の単なる従業員として稼働していたものであって神部茂が一人で原告を経営してきたものである。

右のとおり本件債権譲渡のなされた当時原告は、代表取締役であった神部茂が全株式を所有しかつ経営していた個人企業であったから、形式上本件債権譲渡が商法二六五条に該当し、かつ取締役会の承認を得ていなかったとしても、それにより会社自体又はその株主との間に利害の衝突をもたらすことはなく何らの弊害を生じないから、本件債権譲渡については取締役会の承認は必要ではなかったものである。

(三) 本件債権譲渡については、昭和五一年九月ごろ原告の取締役会において予めその承認決議がなされている。もっとも原告は小規模な株式会社であり従来から取締役会の議事録は作成されておらず、本件債権譲渡の承認についても右議事録は作成されてはいない。

(四) 仮に本件債権譲渡が原告主張のとおり無効であるとしても、原告から被告に対する前記内容証明郵便により右債権譲渡の通知がなされ、かつ被告と訴外静江とは右譲渡にかかる債権と被告の右訴外人に対する債務とを昭和五一年一一月一四日対等額で相殺しているのであるから、原告は第三者である被告に対し右無効を主張し得ないものである。

(抗弁に対する答弁および主張)

一  被告主張のような債権譲渡の通知がなされたことは認める。しかしながら、右乙第一号証の債権譲渡の通知書は形式的には原告代表取締役神部茂名義で作成されてはいるが、実質的には神部茂個人が勝手に原告代表取締役の肩書を用い、その実姉である訴外静江を利するため同訴外人と通謀のうえ、なしたに過ぎず、無効なものである。この点に関し、乙第一号証が訴外静江に到達したのは昭和五一年一二月四日午後六時から同一二時までの間であることは甲第五号証により明らかであり、また訴外静江は本件譲受債権をもって、被告の同訴外人に対する債権と相殺をしているが、右相殺の意思表示の通知が被告に対し発信されたのは同日午後〇時から同六時までの間であることは乙第二号証により明らかであり、その間時間的に不合理な状況が存することは、神部茂と訴外静江間に前記通謀のなされた証左というべきである。

二  仮に、前記の原告の主張が理由がないものとしても、本件債権譲渡は商法二六五条の規定に違反し無効である。即ち原告の当時の商号は旭日産業株式会社であり、訴外静江は原告の取締役であった。しかるに本件債権譲渡については取締役会による承認の事実はない。

被告は本件債権譲渡が商法二六五条に違反しない旨を(一)ないし(四)において主張するが、右各主張はいずれも次のとおり争う。即ち、

(一) まず被告主張の訴外組合から借用した六〇〇〇万円ずつ計一億二〇〇〇万円に関する事情は次のとおりである。

(1)のうち、訴外静江が訴外組合の区域内に住所を有し、原告はその区域外に所在していたこと、および右組合から借入れた金員全額が原告の帳簿上右組合からの借入金として記帳処理されたことは被告の主張するとおりである。しかしながら、原告の帳簿上原告が借主として記載されていたものとしても、それは名目的なものであり、真実の借主は訴外静江であり、神部茂はこれを次のとおり個人的に勝手に費消したものであり、原告の事業資金として使われてはいない。神部茂は昭和四四年四月ごろ借り入れた六〇〇〇万円を、(イ)訴外ミヅホ商事株式会社の全株式額面(合計五〇〇〇万円)を三二八〇万円で買収し、その買収雑費として四二万九四八四円を支出し、(ロ)訴外静江の借入れた店舗新築資金の残債務一七七〇万円をその貸主訴外東栄信用金庫に支出し、(ハ)訴外和泉産業株式会社が右東栄信用金庫から借入れた債務の残額九〇七万〇五一六円を支払って費消し、さらに昭和四八年三月二二日借入れた六〇〇〇万円については、同日神部茂個人が右組合から借入れた四〇〇〇万円と合せて一億円とし、昭和四四年四月三日、そのうち八〇〇〇万円を訴外新東物産株式会社に貸付け、二〇〇〇万円は訴外国際自動販売機株式会社の全株式の払込金として費消したものである。

さらにまた神部茂は訴外静江とは、右二口の訴外組合に対する債務については神部茂個人において責任を負うことを約する旨の確認書(甲第三号証)を作成しているものであって、右訴外組合からの借入金については原告は無関係である。

従って(2)で被告が主張するような、原告に対する事前の求償権の行使はその前提を欠き何ら効力をもちえないものであり、従って一部弁済としての本件債権譲渡も何ら効力がない。

また訴外静江において(3)で主張するように、同訴外人が訴外組合に対し合計七九五四万六六六四円の全額を支払ったことは否認する。これは訴外静江が訴外組合に支払ったものではなく、神部茂が杉並区永福町の不動産を処分することにより支払ったものである。神部茂は前記甲第三号証に基づく訴外静江に対する責任を果したものであって、このことは原告とは関わりのないことである。

(二) 次に被告は本件債権譲渡のなされた当時原告は神部茂が全株式を所有するその個人企業であった旨を主張するが、右主張は否認する。即ち、原告が設立された当時原告の株主としては、斉藤隆、三縞修および市万田晴弘が各五〇〇株ずつの株主として存していたものであって神部茂の個人企業ではなかったし、また本件債権譲渡のなされた当時においては既に原告の全株式は昭和五一年七月二八日の臨時株主総会において、訴外大成興業株式会社等に対し借入金の担保として譲渡することを議決していた(甲第四号証)ものである。

(三) 被告の、(三)項における本件債権譲渡につき原告の取締役会はこれを承諾した、旨の主張は否認する。

(四) 被告の、(四)項における第三者である旨の主張は失当である。即ち前記一に記載のとおり被告の代表取締役である訴外静江は神部茂と通謀のうえ本件債権の譲渡を受けたものであるから、被告は善意の第三者ではない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  そして《証拠省略》によれば、被告が主張するとおり、原告は昭和五一年一二月一〇日被告に対する本件貸付金債権を訴外静江に譲渡し、右債権譲渡の内容証明郵便による通知は同月一四日被告に到達していることが認められ(但し右のうち債権譲渡通知がなされたことは当事者間に争いがない。)、これに反する証拠はない。

三  原告は、右の債権譲渡は当時の原告代表取締役であった神部茂がその真意によらずして、訴外静江と通謀してなした虚偽のものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

この点に関し、《証拠省略》によれば、訴外静江は、本件債権譲渡にかかる譲受債権七七〇万円を自働債権とし、被告の同訴外人に対する七七三万三四六九円の債権を受働債権として相殺の意思表示をなし、右意思表示を記載した昭和五一年一一月一四日付内容証明郵便は同日午後〇時から同六時までの間に発信されていることが認められる。他方前記甲第五号証によれば本件債権譲渡の通知が右訴外人に配達されたのは同日であり、右甲第五号証の配達証明には溝口郵便局の同日の午後六時から同一二時までのスタンプが押捺されていることが認められる。

原告は同号証の右スタンプの存在をもって本件債権譲渡の通知は右午後六時から同一二時までの間に配達されたものとし、これと乙第二号証の発信との間には時間的に不合理な状況が存する、と主張するものであるが、右甲第五号証の郵便局によるスタンプの時間帯が、その名宛人に配達された時間帯を示す趣旨で押捺されたものではないこと(即ち右スタンプは同号証中の「上記郵便物は昭和五一年一二月一四日に配達されたことを証明」するものとして押捺されたものであって、例えば翌一五日の日付であってもよく、必ずしもその配達日時の日付、時刻を押捺する必要はない。)は、当裁判所の職務上顕著な事柄であって、原告の前記主張は採り得ないものである。

四  原告は次に本件債権譲渡は商法二六五条に違反する旨主張する。

《証拠省略》によれば、本件債権譲渡のなされた当時訴外静江は旭日産業の取締役として登記がなされていたことを認めることができ、これに反する証拠はなく、また本件債権譲渡について被告主張のようにその主張のころ旭日産業の取締役会において予めその承認の決議がなされたことについては本件全証拠によるもこれを認めることはできないところである。

しかしながら《証拠省略》を総合すると、

原告はキャバレーの営業を目的とし、旧商号を旭日産業とし、昭和四〇年九月設立されたが、払込済資本金の五〇〇万円は神部茂がその全額を払込んだものであること、しかし設立手続の便宜のため募集設立としたため、形式上神部裕、神部ひろみ、神部淑子、神部ヒロ、訴外静江および神部千代子ら神部茂の親族のほか神部茂の従業員であった斉藤隆、三縞修および市万田晴弘も発起人に加え、右斉藤、三縞および市万田も形式的に株式を五〇〇株宛引受けてその株主となったが、前記神部茂の親族はもとより右三名についても単に名義を借りたにすぎず、旭日産業の全株式一万株はすべて実質上は神部茂が所有していたものであること、その後神部茂は従業員の長坂善三郎についても旭日産業の五〇〇株の株主としたが、これについても名義を借用したにすぎず、その実質的な所有者は神部茂であったこと、そして神部茂は旭日産業の取締役として、矢部衛、訴外静江、前記三縞、斉藤、長坂および市万田らを選任して登記し、自らは代表取締役となってその経営にあたってきたが、旭日産業の全株式の実質上の所有者として独断専行してこれにあたり、前記取締役として登記された者のうち、訴外静江は単に名義を貸与したに過ぎず、その余の者は実質上は従業員として神部茂の指示に従い稼働していたに過ぎず、旭日産業は神部茂の個人企業に過ぎなかったものであること、

そして旭日産業は昭和四四年四月ごろと昭和四八年二月ごろの二回にわたり、その事業資金として各六〇〇〇万円の合計一億二〇〇〇万円を訴外組合から借り入れたが、その当時訴外組合は融資先を同組合の区域内に住所を有している者に限っており、旭日産業の所在地は右区域外にあり、神部茂の姉の訴外静江は右区域内に居住していたことおよび訴外静江は右の担保となる川崎市高津区溝口字南耕地三〇〇番二所在の鉄筋コンクリート造陸屋根二階建店舗(以下これを溝口の物件という。)を所有していたため、神部茂は訴外組合および訴外静江の了解を得たうえで、前記旭日産業に対する各六〇〇〇万円ずつの融資については訴外静江はその担保として溝口の物件を提供するほか、名義上その借主となってもらったものであること、そして前記のとおり訴外組合は右各六〇〇〇万円をいずれも返済期限を昭和五一年三月三一日として貸付け、右貸付を受けた都度神部茂はこれを旭日産業に入金し、同社の帳簿(総勘定元帳)上も訴外組合からの借入金として計上処理され、神部茂はこれらを旭日産業の事業資金として使用したものであること、そして訴外静江は前記の約定に従い右各貸付のころその所有の溝口の物件につき訴外組合のため順位一番の抵当権を設定し登記したものであること、そして旭日産業はその後経営不振に陥り、昭和五一年一〇月ころ手形不渡りにより銀行取引停止処分を受けたため訴外組合に対する右債務の弁済は全く不可能となったが、そのころ神部茂は訴外組合からの前記融資を受けるについては姉の訴外静江から前記のとおりその所有の溝口の物件が担保に供されており、訴外組合から右担保を実行されるおそれも生じたため、これに対する責任を果たすため、その当時旭日産業が被告に対して有していた本件の合計七七〇万円の貸金債権を訴外静江に譲渡することを考え、前記のとおり本件債権譲渡をなしたものであること、そして、その後訴外静江は訴外組合から右溝口の物件に対する抵当権を実行されそうになったため昭和五三年七月三日前記旭日産業の訴外組合に対する融資の残債務元本と遅延損害金の合計七九五四万六六六四円の全額を支払い右抵当権の実行は免れたものであること、

等の各事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

右認定のとおり、本件債権譲渡がなされた当時原告の前身である旭日産業は実質的には神部茂の個人企業であり、かつ右債権譲渡は旭日産業が訴外静江に対して負担するべき求償債務の事前の履行と解することができるのであり、従って旭日産業が不利益を受ける虞れの全くない取引行為であると解されるから、前記のとおり、当時訴外静江もまた旭日産業の取締役であり、かつその取締役会の承認を受けていなかったとしても、商法二六五条に違反し無効のものとすることはできないものである。この点についての原告の主張は結局理由がない。

五  そうするとその余の点について判断するまでもなく、被告主張の抗弁は理由があり、原告の本訴各請求は理由がないことに帰するから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 手島徹)

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